サプライチェーン脱炭素戦略の鍵?カーボンクレジット市場の拡大と活用法

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サプライチェーン脱炭素戦略の鍵?カーボンクレジット市場の拡大と活用法

近年、企業に求められる脱炭素化の波は、自社の直接排出量(スコープ1・2)に留まらず、サプライチェーン全体(スコープ3)へと拡大しています。しかし、広範にわたるサプライヤーの排出量を把握し、削減を進めることは容易ではありません。こうした中で、排出量削減努力を補完し、脱炭素目標達成を支援するツールとして注目されているのが「カーボンクレジット」です。世界のGX(グリーントランスフォーメーション)推進の流れを背景に、その市場は急速に拡大しており、多くの企業がその活用可能性を探っています。

本記事では、カーボンクレジット市場の現状と拡大の背景、そしてサプライチェーン脱炭素戦略における具体的な活用可能性について深く掘り下げます。また、活用における注意点や、サプライヤーとの協調を通じた未来の脱炭素戦略についても解説。企業のサステナビリティ担当者様や経営層の皆様が、実務に活かせる実践的な情報を提供いたします。

カーボンクレジット市場の現状と拡大の背景

カーボンクレジットとは、温室効果ガス(GHG)の排出量を削減または吸収した成果を、"クレジット"として数値化し、取引可能にしたものです。この市場は、近年目覚ましい成長を遂げています。例えば、世界のボランタリーカーボン市場は、2020年の約3,000億円規模から、2030年には数兆円規模に拡大すると予測されており、その成長率は年々加速しています。この市場拡大の背景には、大きく分けて二つの要因があります。

一つは、パリ協定に代表される国際的な脱炭素目標の高まりと、それに応じた企業のGHG排出量削減へのコミットメント強化です。多くの企業がSBT(Science Based Targets)やRE100といった国際的なイニシアチブに賛同し、野心的な脱炭素目標を設定しています。しかし、自社単独での排出量削減には限界があり、特にサプライチェーン全体での削減(スコープ3)は、自社の直接排出量の数倍から数十倍に達することも珍しくありません。このような状況下で、削減が困難な排出量に対する補完的な手段として、カーボンクレジットへの需要が高まっています。

もう一つは、環境意識の高まりと投資家のESG(環境・社会・ガバナンス)投資への注力です。企業が持続可能な経営を行う上で、脱炭素への取り組みは不可欠な要素となり、その進捗は企業の評価に直結します。カーボンクレジットの活用は、企業の脱炭素への意欲を示すと同時に、具体的な排出量オフセットの実績として対外的にアピールできるため、投資家や消費者からの評価向上にもつながるのです。また、再生可能エネルギープロジェクトや森林保護活動など、クレジット創出プロジェクトへの投資は、SDGs達成への貢献としても位置づけられます。

サプライチェーン脱炭素戦略におけるカーボンクレジットの活用可能性

サプライチェーン全体の脱炭素化は、現代企業にとって喫緊の課題であり、その複雑さゆえに多くの企業が頭を悩ませています。カーボンクレジットは、この難題に対する有効な解決策の一つとして、多様な活用可能性を秘めています。

まず、最も直接的な活用方法は、削減困難なスコープ3排出量の「オフセット」です。例えば、海外のサプライヤーが排出する物流コストや生産活動によるGHG排出量は、自社の直接的な管理下にないため、削減が困難なケースが多く存在します。こうした排出量に対し、信頼性の高いカーボンクレジットを購入・償却することで、実質的なカーボンニュートラル達成に貢献できます。ただし、オフセットはあくまで最終手段であり、まずはサプライチェーン内で可能な限りの削減努力を行うことが大前提となります。

次に、サプライヤーへの「インセンティブ提供」や「共同プロジェクトへの活用」も考えられます。例えば、自社がカーボンクレジット創出プロジェクトに投資し、そのクレジットをサプライヤーの脱炭素目標達成に役立てる、あるいは、サプライヤーが再生可能エネルギー導入や省エネ設備導入を行った際に、その削減量をクレジットとして共同で活用するといった形です。これにより、サプライヤーの脱炭素化へのモチベーションを高め、サプライチェーン全体での排出量削減を加速させることが期待できます。

さらに、企業のGHG排出量報告やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)開示における説明責任を果たす上でも、カーボンクレジットは重要な役割を担います。クレジットを活用した排出量オフセットは、企業が設定した脱炭素目標の達成状況を具体的に示す指標となり、ステークホルダーへの透明性の高い情報開示を可能にします。これにより、企業の持続可能性に対する信頼性を高め、競争優位性を確立することにもつながるでしょう。

カーボンクレジット活用における注意点と課題

カーボンクレジットは強力な脱炭素ツールですが、その活用にはいくつかの重要な注意点と課題が存在します。これらを理解し、適切に対処することが、効果的かつ信頼性の高い脱炭素戦略を構築する上で不可欠です。

最も大きな注意点の一つは、「グリーンウォッシュ」批判への対策です。グリーンウォッシュとは、実態が伴わないにもかかわらず、環境に配慮しているかのように見せかける行為を指します。安易なオフセットに頼り、自社の排出削減努力を怠っているとみなされれば、企業の評判を損ないかねません。カーボンクレジットは、あくまで自社およびサプライチェーン内での排出削減努力を最大限に行った上で、なお残る排出量を補完する位置づけとして活用すべきです。この優先順位を明確にし、コミュニケーションすることが重要です。

また、クレジットの「品質」と「信頼性」の確保も極めて重要です。市場には多様なカーボンクレジットが存在しますが、その中にはプロジェクトの実効性や追加性(クレジットなしでは実現しなかった削減量であること)、ダブルカウント(同じ削減量が複数回計上されること)に疑義があるものも存在します。信頼性の低いクレジットを購入すると、意図せずグリーンウォッシュに加担してしまうリスクがあります。クレジット選定にあたっては、Gold StandardやVerra(VCS)といった国際的に認知された認証基準に準拠したプロジェクトから発行されたクレジットを選ぶなど、厳格なデューデリジェンスが求められます。

さらに、市場の価格変動リスクも考慮する必要があります。カーボンクレジットの価格は、需給バランスや政策動向によって変動します。長期的な脱炭素戦略を構築する際には、クレジットの価格変動リスクをどのように管理し、安定的に調達していくかの戦略も不可欠です。複数のサプライヤーからの調達、先物契約の活用、あるいは自社でクレジット創出プロジェクトに投資するといった多様なアプローチを検討することが望ましいでしょう。

サプライチェーン協調による脱炭素化とカーボンクレジットの未来

サプライチェーン全体の脱炭素化は、一企業単独での努力には限界があります。真に効果的なGHG排出量削減を実現するためには、サプライヤーとの緊密な協調が不可欠であり、カーボンクレジットはその協調を促進する強力な触媒となり得ます。

サプライヤーとの協調体制を構築する上で重要なのは、まずGHG排出量の「見える化」と「データ共有」です。スコープ3排出量の算定には、サプライヤーからの正確なデータ提供が不可欠であり、共通のプラットフォームやツールを活用することで、このプロセスを効率化できます。データが可視化されれば、削減ポテンシャルの高い領域を特定し、具体的な削減目標をサプライヤーと共有することが可能になります。

次に、共同での削減プロジェクトの推進と、その成果としてのカーボンクレジット活用です。例えば、自社がサプライヤーに対し、省エネ設備導入や再生可能エネルギーへの転換に関する技術的・資金的支援を提供し、それによって削減された排出量をカーボンクレジットとして共同で活用するモデルが考えられます。これにより、サプライヤーは初期投資の負担を軽減しつつ脱炭素化を進められ、自社はサプライチェーン全体のGHG排出量削減に貢献できるという、双方にとってメリットのある関係を構築できます。

カーボンクレジット市場は、今後もさらなる進化を遂げると予測されます。ブロックチェーン技術を活用した透明性の高い取引システムの導入や、より多様なGHG排出削減プロジェクトの創出、さらにはJ-クレジット制度のような国内市場の活性化も期待されています。このような市場の変化を常に注視し、自社のサプライチェーン脱炭素戦略に柔軟に取り入れていくことが、持続可能な企業成長の鍵となるでしょう。

まとめ

サプライチェーン全体の脱炭素化は、企業にとって避けられない経営課題です。カーボンクレジットは、この複雑な課題を解決するための有効なツールの一つであり、削減が困難なGHG排出量のオフセット、サプライヤーへのインセンティブ提供、そして企業の透明性向上に貢献します。しかし、グリーンウォッシュ批判やクレジット品質への懸念など、その活用には戦略的なアプローチと慎重なデューデリジェンスが不可欠です。最も重要なのは、カーボンクレジットを「削減努力の補完」と位置づけ、まずは自社およびサプライチェーン内での直接的な排出削減に最大限取り組むこと。そして、サプライヤーとの協調を通じて、データ共有、技術支援、共同プロジェクトを推進し、サプライチェーン全体で持続可能な脱炭素社会の実現を目指すことです。今後も拡大が続くカーボンクレジット市場を賢く活用し、企業のGX推進を加速させましょう。

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