脱炭素経営の基本用語を徹底解説!スコープ1,2,3からSBTiまで経営者が知るべき基礎知識

近年、脱炭素経営は企業にとって避けて通れない喫緊の課題となっています。パリ協定で掲げられた「世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える」という目標達成に向け、各国政府や企業が温室効果ガス(GHG)排出量削減の取り組みを加速させています。しかし、その過程で「スコープ1、2、3」「GHGプロトコル」「SBTi」など、多くの専門用語に直面し、その意味や関連性を正確に理解することが難しいと感じている経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
これらの用語は、自社の排出量を正確に把握し、効果的な削減目標を設定する上で不可欠な知識です。本記事では、脱炭素経営を進める上で経営者が知るべき主要な基本用語を、分かりやすく解説します。これらの知識を身につけることで、貴社の脱炭素戦略をより確実なものとし、持続可能な企業成長へと繋げる一助となれば幸いです。
脱炭素経営の礎「GHGプロトコル」とその重要性
GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)は、企業や組織が温室効果ガス(GHG)排出量を算定・報告するための国際的な基準です。世界資源研究所(WRI)と世界企業持続的発展評議会(WBCSD)が共同で開発し、世界中の多くの企業や政府機関で採用されています。このGHGプロトコルが提供するフレームワークがあるからこそ、異なる企業間や国境を越えてGHG排出量を比較・評価することが可能になっています。
GHGプロトコルは、GHG排出量の「算定・報告の5原則」を定めています。これは、算定の信頼性と透明性を確保するために非常に重要です。
- 関連性(Relevance):ステークホルダーの意思決定に役立つ情報を含めること。
- 完全性(Completeness):全てのGHG排出源を網羅し、除外する場合はその理由を明記すること。
- 整合性(Consistency):比較可能な方法で排出量を算定・報告すること。
- 透明性(Transparency):算定方法や前提条件を明確に開示すること。
- 正確性(Accuracy):排出量を合理的に正確に算定すること。
これらの原則に基づき、企業は自社のGHG排出量を客観的に評価し、削減に向けた具体的な戦略を立てる第一歩を踏み出すことができます。サプライチェーン全体の脱炭素化を目指す上でも、このGHGプロトコルが提供する共通の土台は不可欠なのです。
温室効果ガス排出量の分類「スコープ1, 2, 3」を徹底理解
GHGプロトコルでは、企業が排出する温室効果ガスを「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」の3つのカテゴリに分類します。この分類は、排出源の責任範囲を明確にし、効果的な削減策を講じる上で極めて重要です。特に、自社だけでなくサプライチェーン全体での排出量を把握する「スコープ3」の重要性が高まっています。
スコープ1:自社の直接排出
スコープ1は、事業者自らが排出源を所有または管理していることによる直接的な温室効果ガス排出を指します。具体的には、自社工場やオフィスでの燃料の燃焼(例:ガス、重油)、社有車や社用車のガソリン使用、自社が所有する設備での工業プロセスからの排出などがこれに該当します。
例えば、自社工場でボイラーを稼働させるために天然ガスを燃焼すれば、そこから直接CO2が排出されるためスコープ1となります。企業は、自社の活動に伴うGHG排出量を直接的に管理・削減する責任を負います。
スコープ2:電力・熱の使用による間接排出
スコープ2は、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接的な温室効果ガス排出を指します。自社で燃料を燃やすわけではありませんが、発電所や熱供給施設がGHGを排出しているため、そのエネルギーを利用する企業も間接的に排出に寄与していると見なされます。
例えば、オフィスや工場で使用する購入電力や、地域熱供給サービスから供給される熱などがスコープ2に分類されます。これは、再生可能エネルギーへの切り替えや省エネルギー化によって直接削減可能な排出量であり、多くの企業が取り組みやすい領域です。
スコープ3:サプライチェーン全体のその他の間接排出
スコープ3は、スコープ1、スコープ2以外の、事業者の事業活動に関わるサプライチェーン全体の温室効果ガス排出を指します。これは、自社では直接排出源を所有・管理していないものの、原材料調達から製品の廃棄に至るまでのバリューチェーン全体で発生する排出量であり、その範囲は非常に広範です。
スコープ3は、GHGプロトコルによって15のカテゴリに分類されます。このカテゴリは、排出量の算定を体系的に行うために設けられています。
- カテゴリ1:購入した製品・サービス(原材料の生産、製品製造など)
- カテゴリ2:資本財(製造設備の生産など)
- カテゴリ3:燃料およびエネルギー関連活動(スコープ1,2以外)
- カテゴリ4:輸送・配送(上流)(サプライヤーから自社への輸送など)
- カテゴリ5:事業から出る廃棄物(自社から排出される廃棄物の処理など)
- カテゴリ6:出張(従業員の出張)
- カテゴリ7:従業員の通勤
- カテゴリ8:リース資産(上流)
- カテゴリ9:輸送・配送(下流)(自社から顧客への輸送など)
- カテゴリ10:販売した製品の加工
- カテゴリ11:販売した製品の使用(製品が使用される際の電力消費など)
- カテゴリ12:販売した製品の廃棄(製品の廃棄・リサイクルなど)
- カテゴリ13:リース資産(下流)
- カテゴリ14:フランチャイズ
- カテゴリ15:投資
多くの企業において、GHG排出量の大部分がスコープ3に集中していることが明らかになっており、サプライヤーや顧客との連携なしには削減が難しい領域です。そのため、サプライチェーン全体の脱炭素化は、企業が競争力を維持し、持続可能な事業を構築するために不可欠な取り組みとなっています。
科学的根拠に基づく目標設定「SBTi」とは
SBTi(Science Based Targets initiative:科学的根拠に基づく目標)は、企業がパリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減目標を設定することを推進する国際的なイニシアチブです。国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の4つの機関が共同で運営しています。
SBTiに認定された目標は、「科学的根拠に基づいている」と評価され、企業が気候変動対策に真摯に取り組んでいることを示す強力な証となります。具体的には、世界の平均気温上昇を「産業革命前と比較して2℃を十分に下回る水準」に抑え、さらに「1.5℃に抑える努力をする」というパリ協定の目標達成に貢献するための排出削減経路に沿った目標設定を企業に求めます。
SBTiへのコミットメントは、企業に以下のようなメリットをもたらします。
- 企業価値の向上:投資家や顧客からの評価が高まり、ESG投資の対象となりやすくなります。
- 競争力の強化:将来的な規制強化や炭素税導入リスクへの対応力を高めます。
- イノベーションの促進:新たな技術やビジネスモデルの開発を促し、持続可能な成長機会を創出します。
- サプライチェーンエンゲージメントの強化:サプライヤーとの連携を深め、サプライチェーン全体のレジリエンスを高めます。
SBTiは、企業が目標設定から達成までを追跡・報告するプロセスも提供しており、透明性とアカウンタビリティを確保しています。現在、世界中の数千社もの企業がSBTiにコミットしており、その数は年々増加しています。
まとめ:脱炭素経営は企業成長の新たな機会
本記事では、脱炭素経営を推進する上で不可欠な基本用語である「GHGプロトコル」「スコープ1, 2, 3」「SBTi」について解説しました。これらの用語は単なる専門用語ではなく、自社の環境負荷を正確に理解し、効果的な削減戦略を構築するための羅針盤となります。
特にスコープ3の算定と削減は、サプライチェーン全体の脱炭素化を意味し、多くの企業にとって大きな課題であると同時に、新たなビジネスチャンスでもあります。サプライヤーとの協調や、革新的な技術導入、効率的な資源利用は、コスト削減や企業イメージ向上だけでなく、持続可能なサプライチェーンの構築に直結します。
脱炭素経営は、単なる環境規制への対応ではなく、企業価値を高め、持続的な成長を実現するための重要な経営戦略です。これらの知識を活かし、貴社の脱炭素への取り組みを加速させ、未来に向けた強固な基盤を築いていきましょう。
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